多自由度コロキウム

第七回(12/19)

ペーストへの記憶の刷り込みと乾燥破壊時の亀裂パターンの制御

12/19(月) 15時〜 (2時間程度を予定)

  • 講演者 中原明生氏 (日本大学理工学部・一般教育教室)
  • 要旨 粉と水を混ぜて混合液を作り容器に入れ乾燥させると、「干上がった沼地」のような 等方的なセル状亀裂が発生する。我々は粉と水との混合比を変化させて乾燥破壊の実験を おこなったところ、粉に対して水の混合比率が低く混合液がペースト状の場合には、混合 液を入れた容器を初期段階で揺すっておくと、その後乾燥して発生する亀裂パターンが「 初期に揺すった方向」に垂直な縞模様になることを実験的に見出したので報告する。 引用文献:A. Nakahara and Y. Matsuo, J. Phys. Soc. Jpn., (2005), Vol. 74, No. 5, p. 1362-1365.

第六回(10/24)

外国為替市場の頻度時系列分析とエージェントモデル

10/24(月) 13時30分〜

  • 講演者 佐藤 彰洋氏(京都大学情報学研究科数理工学専攻)
  • 要旨 情報技術の進歩によって高頻度経済時系列の蓄積が進み、分析が可能となってきた。本発表では、外国為替市場の高頻度時系列の頻度分析の報告を行なう。外国為替市場の単位時間当たりの建値回数の時系列を分析したところ、数分のオーダーで周期性が現われたり消えたりする現象を見つけた。これは、市場参加者が秩序だって行動することがあることを意味している。この現象を説明するために、売買の2つの閾値を持つエージェントからなる金融市場のモデルを提案する。弱い外因性の周期情報が存在するという仮定のもと、エージェントの活性度に対応する量に周期性が現われ、その周期性の強さはエージェントの判断のゆらぎに依存して単峰形となる確率共鳴現象がが確認された。外国為替市場の高頻度時系列分析から確認された周期性の生成と消滅はエージェントの判断のゆらぎと関係するという仮説を提案する。

第五回(9/09)

計算機代数を用いた化学反応の計算モデル

9/9(金) 15時〜

  • 講演者 鈴木 泰博氏 (名大情科)
  • 要旨 反応速度論をベースにした計算機代数(書き換え系, rewriting system) を用 いた化学反応の抽象計算モデル Abstract Rewriting System on Multisets (ARMS)の研究につ いてその概略を紹介する。セミナーでは、
  • 確率モデルとしての解釈(ブルセレータ、少数粒子系など)反応のパラメータとダイナミクス
  • 細胞内シグナル伝達系のモデル化と系の安定性
  • 膜構造を導入した系にみられる進化的ふるまい

などについて簡単に紹介する。

第四回(7/29)

Sutherlandモデルの組み紐群構造と生成消滅演算子

7/29(金) 15時〜

  • 講演者 高村 明氏 (豊田高専)
  • 要旨 距離の2乗に反比例する量子力学的多体系は、提案されて以来多くの 人々によって研究されてきた。 円周上に閉じ込められたモデルはSutherlandモデルと呼ばれている。 近年、Sutherlandモデルは量子カオスや量子ホール効果との関連からも 研究されている。

    Sutherlandモデルの基底状態は、Jastrow型と呼ばれる、2体の 波動関数の積として与えられる。 また励起状態は基底状態に多変数多項式をかける形で与えられる。 この多変数多項式はJack多項式と呼ばれている。 Jack多項式には双対性と呼ばれる性質があり、動的相関関数の 計算結果には、この双対性の性質が現れている。

    しかし、これまでのSutherlandモデルの研究は、主にJack多項式の 具体的な形により議論が進められてきており、必ずしも見通しのよい 議論ではなかった。Sutherlandモデルをより深く理解するには、 それらを演算子形式で理解しなおす必要もある。 また、モデルに適した演算子を定義できれば、単に演算子を使って 簡単に解くというだけで終わるのではなく、代数構造、すなわち、 その物理的な意味も明らかにできるという利点がある。

    この講演では、Sutherlandモデルの代数的な関係を求め、 その表現を構成することによってエネルギー固有値を求める。 また、これらの結果を再考察し、古典可積分系と量子可積分の 違いについて述べる。 最後に、現在まだ解かれていない楕円型量子多体モデルの抱えている 困難さについても触れたいと思う。

第三回(6/23)

微小重力を利用した基礎物理現象の研究

6/23(木) 13時00分〜

  • 講演者 小林礼人氏 (中部大学)
  • 要旨 現在建設中の国際宇宙ステーションは、微小重力など地上では 実現できない特異な環境を提供する。これまでの宇宙環境利用研 究は材料科学やライフサイエンスが主であったが、ここ数年の間 に基礎物理学や基礎化学の分野での利用が検討されてきた。特に、 圧縮率が発散し重力の影響を受けやすい気液臨界点付近の流体を 用いた実験は、将来の宇宙環境利用研究の有力な候補である。こ れらの流体にみられる特異な熱輸送現象を中心に最新の成果を交 えながら、今後の宇宙環境利用研究を展望する。

第二回(6/10)

  • 日時 6/10(金) 15時00分〜

可積分散逸系から得られる微分差分方程式のソリトン解

  • 発表者 小林由紀子 
  • 要旨 交通流のモデルとして導入された、遅れを持つ一階微分方程式系で厳密解が得られているものがある。この方程式はある微分差分方程式系に還元され、その解はヤコビの楕円関数で特徴付けられ、渋滞を意味する移動クラスター解を表現する。この系はソリトン系と関係している。この微分差分方程式の一連の解を求めることを目的とする。

DFAを用いた時系列データの解析

  • 発表者 鈴木豊司
  • 要旨 経済データ(円ードル為替レート)について時系列データ解析を行う。解析にあたりDetrended Fluctuation Analysisという解析手法を用いて、時間スケールごとに異なる変動パターンについて解析を行う。

準結晶格子のIsingスピンの反強磁性磁気秩序シミュレーション

  • 発表者 宮崎亜紀子
  • 要旨  結晶はある決まった原子の配置が繰り返し並んだ構造、すなわち、並進対称性を持つ。準結晶は、この結晶を定義づける並進対称性は持たないが、原子配列に高い秩序性を有している。  現在の研究では、三次元準結晶のモデル構造の格子位置にIsingスピンを置いて、スピン間にRKKY交換磁気相互作用が働くとした場合の準周期的な反強磁性的長距離秩序の磁気配列の性質を調べることを目的とし、シミュレーションを行っている。

第一回(6/2)

  • 日時 6/2(木) 13時30分〜

最適速度模型の解の安定性とHopf分岐現象

  • 発表者 山本眞巳
  • 要旨  交通流の数理モデルとして考案された最適速度模型は非線形散逸微分方程式である。この方程式は一様流解と渋滞流解という2種類の解を持つことが知られており、パラメータを変えることで2つの解の安定性は変化していく。これはHopf分岐現象として理解でき、その振る舞いを調べる。

最適速度模型の準安定解とボトルネック開放系における振動解の関係

  • 発表者 秋山倫太朗
  • 要旨 移動クラスター解をもつ散逸系模型(最適速度模型)はボトルネック開放系でのシミュレーションで一定区間に安定して存在する振動解が観測されている。この解は、最適速度模型のsubcritical Hopf分岐における準安定解と関係していると思われる。本研究では、オリジナルの最適速度模型(2階微分型)と同じクラスに属すると考えられ、厳密解の知られている1階時間遅れ付き最適速度模型を解析することで、両者の関係を明らかにすることを目的としている。

Minority Gameをベースとした人工市場の形成と富の分布

  • 発表者 戸田皓治
  • 要旨 Minority Gameは市場の簡単なモデルとして有用であり,拡張を行うことで経済現象との関連性が深まることも多い.本研究では,エージェントにリスク資産と無リスク資産を所持させ,リスク資産の売買を通じて富を発展させることで,更なる一般性と現実性の導入を図った.その結果,エージェントの富の分布において,Pareto則など現実世界との関連を示す性質が得られた.

名古屋大学 情報科学研究科 複雑系科学専攻 多自由度システム情報論講座