多自由度コロキウム

第三回(6/16)

棄却無しモンテカルロ法の効率と応用

6/16(金) 15時〜 (2時間程度を予定)

  • 講演者 渡辺 宙志氏 (名大情科)
  • 要旨 モンテカルロ法は近年の計算能力の発展に伴い、物性を調べる有力な手段となっているが、 強外場下や極低温においては、試行が棄却される確率が高くなり、 その結果サンプリング効率が悪くなることが知られている。 そこで棄却無し(Rejection-Free)モンテカルロ法が提案されており、 連続スピン系にも応用されている。本研究では平均場近似を用いて、棄却無し モンテカルロ法の効率をスピン系、粒子系それぞれについて導き、数値計算で確認した。 また、棄却無しモンテカルロ法を初めて粒子系に応用し、高密度で通常の方法よりも 効率がよくなることを確かめた。本発表ではモンテカルロ法の基礎から、棄却無し モンテカルロ法で用いた高速化手法までを述べる。

第二回(5/19)

自己駆動粒子系のパターン形成の数理 - OV模型の移動クラスター解を題材に可積分系と散逸系の性質を探る -

5/19(金) 15時〜 (2時間程度を予定)

  • 講演者 杉山 雄規氏 (名大情科)
  • 要旨 自己駆動粒子(Self-driven Particles) とは、運動のためのエネルギーは 必要に応じて系の外から注入される点に着目した呼称である。 エネルギーの散逸があるから運動を維持するために注入が必要なのだが、 エネルギーの出入りのバランスが1個の粒子で実現された場合は、慣性運動に 漸近するという自明な運動になる。しかし、これら粒子が相互作用する集団となったとき、 系全体としてエネルギーの出入りが非自明なバランス状態を実現するところに、 ミクロレベルの構成粒子に見られないマクロな現象が生まれる。例えば生命現象はその典型である。 このような性質を持つ最も簡単な抽象模型として1次元OV模型を考え、 よく知られた多体振動子系との違いという観点から見直し、非平衡開放系としての特徴を検証する。 さらに、非平衡開放系に見られるマクロ現象の新たな特徴として、 「パターン形成における時間的変化の過程と緩和状態でのパターン変化の空間構造の相似性」 という現象を提案し、1階遅れつきOV模型の楕円関数で記述される移動クラスターの厳密解を使って、 上記の相似性を「解の安定性のモジュライパラメータ依存性」からの説明を試みる。

第一回(4/21)

磁場中の2次元電子プラズマのモデルとしての点渦系の2種類の緩和

4/21(金) 15時〜 (2時間程度を予定)

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  • 講演者 河原 亮氏 (九大凝縮系凝縮系II)
  • 要旨

電子のみからなるプラズマは磁場によって円筒容器に閉じ込めることが可 能であり(Malmberg トラップ)、その運動は2 次元点渦(渦糸) 系でモデル化され、 近似的に2 次元非粘性非圧縮流体のEuler 方程式で記述されます。 そのため惑星大気運動など2次元流体の定量的性質を実験するのに使われます。

この系では、渦が融合して大きなクラスターを作りますが、その 最終的な安定状態が何であるかが議論されてきました。 実験では、 エンストロフィー(enstrophy) 最小状態[1]、 渦結晶(vortex crystal) 状態[2] など何種類かの安定な状態が得られていて、 エンストロフィー最小状態は Tsallis エントロピー最大状態の一つであることが指摘されています。[3] またシミュレーションで粒子数が少ない場合に エントロピー最大状態になるという結果[4] あり、研究が続いています。

そこで我々はシミュレーションでこの系を調べました。その結果、 系の緩和には速い緩和と遅い緩和があることがわかりました。 速い緩和は流体力学的タイムスケールでおき、その後に渦結晶を含む 多様な準安定状態が再現されました。 一方、その後に引き続き起きる遅い緩和では、 系はエントロピー最大分布に近づき、緩和時間はバルク回転時間を単位としてNに 比例することがわかりました。このことは遅い緩和が流体力学的効果でなく、 粒子の離散性に起因する事を示唆しています。

遅い緩和は、 同じく長距離相互作用である重力多体系との類推から 点渦の拡散が原因と予想されており[5]、 我々はこの拡散現象についてシミュレーションとの比較を行なったところ、 おおよそ理論と同様の振舞を示すものの、粒子数が少ない時には 理論とのずれも見つかりました。

セミナーではこのような2次元渦のクラスター形成の緩和過程の全体像と 統計力学的特徴について御報告致します。

  • [1] X.-P. Huang and C. F. Driscoll: Phys. Rev. Lett. 72 (1994) 2187.
  • [2] K.S. Fine, A.C. Cass, W.G. Flynn, and C.F. Driscoll: Phys. Rev. Lett. 75 (1995) 3277.
  • [3] B.M. Boghosian: Phys. Rev. E 53 (1996) 4754.
  • [4] S. Kida: J. Phys. Soc. Jpn. 39 (1975) 1395 .
  • [5] P.H. Chavanis: in Dynamics and Thermodynamics of Systems with Long Range Interactions, edited by T. Dauxois, S. Ruffo, E.Arimondo, M. Wilkens, Lecture Notes in Physics, Vol. 602, Springer. (cond-mat/0212223)

名古屋大学 情報科学研究科 複雑系科学専攻 多自由度システム情報論講座