第六回(11/21)日程が変更になりました †散逸関数と内部エネルギーからの変分原理による流体の運動方程式の導出 †11/21(月) 15時00分〜 (2時間程度を予定)
流体の内部エネルギーと散逸関数が与えられたときに、 変分原理を使って流体の運動方程式を導出する。 最初に散逸のない系である完全流体の変分原理について説明をし、 次に散逸系であるニュートン流体、粘弾性流体、高分子溶液の変分原理について 説明をする。 完全流体では質量保存則と断熱条件が成立し、 オイラー方程式はこれらの拘束条件の下で、 ある汎関数を最小にする条件から導出することができることが知られている。 一方、散逸系であるニュートン流体では断熱条件は成立しておらず、 流体粒子の流跡線沿ったエントロピーの変化は散逸関数と熱流によって決まる。 これを使って、エントロピーに関する非ホロノミックな拘束条件を得ることがで きる。 本発表では、ナビエストークス方程式がこの拘束条件の下で 完全流体と同じ汎関数が最小になる条件から導くこができることを示す。 また、この方法は粘弾性流体、高分子溶液についても適用可能であり、これにつ いても説明する。 参考文献: [1] Hiroki Fukagawa, Youhei Fujitani, Clebsch Potentials in the Variational Principle for a Perfect Fluid, Prog. Theor. Phys. 124, 517-531 (2010). http://jp.arxiv.org/abs/1007.3093 [2] Hiroki Fukagawa, Youhei Fujitani, A Variational Principle for the Newtonian Fluid, http://jp.arxiv.org/abs/1104.0866 第五回(10/17) †細谷暁夫の「てんとう虫のパラドクス」の解決 †10/17(月) 13時30分〜 (1時間程度を予定)
細谷暁夫氏(東工大)が提案した「てんとう虫のパラドクス」という 問題の解答を見出したので、それについて報告する。 光や物質は粒子性と波動性の両方の性質を持っていてながら、 同時に両方を観測することはできないことを相補性と言う。 ところが、てんとう虫は光の粒子性と波動性を同時に観測できるように見える、 というのが「てんとう虫のパラドクス」である。 答えは見てのお楽しみ。 参考文献:小野・細谷・岡・斯波「現代物理学」講談社 (2002), p30, 211, 212. 第四回(8/8) †量子力学の基礎付けに向けた非局所相関の特徴付け †8/8(月) 13時30分〜 (2時間程度を予定)
ベルの不等式とその破れは、 量子力学が古典論で許されるよりも強い相関を記述することを示している。 しかし、相対論の要請である超光速通信不可能性だけを条件として課した場合には、 量子力学で達成可能なものよりもさらに強い相関が許されることが知られている。 一方で、このような量子力学を超える相関をリソースとして用いると、 量子力学では不可能な情報処理タスクが可能となってしまうこともわかっている。 これは、ある種の情報処理タスクの実行不可能性の条件が量子力学を基礎づける原理 となりうることを示している。 セミナーでは、このような原理の候補として最も有力である情報因果律と、 その周辺の研究について説明する。 第三回(8/1) †粘性の非線形性と方向性のある流れ −−真性粘菌細胞質のモデルを例に †8/1(月) 15時00分〜 (2時間程度を予定)
真性粘菌変形体は多核単細胞の巨大アメーバ様細胞で,発達すると 細胞質がシート状に広がった周辺部と,ゲル化した細胞質のチューブが ネットワークを作りその中を細胞質ゾルが流れる後方からなる構造を作る. 細胞運動としては,周辺部がポンプとなって収縮-弛緩振動することにより チューブの中に細胞質ゾルの流れを作り出し,それが細胞全体の移動を生み 出していることは知られているが,細胞が巨大で周辺部の収縮-弛緩振動と 細胞質の流れを同時に観察する術がないため,詳細な動態の解明には至って いない.そのため,不足している情報を補い,動態を明らかにする数理モデル の構築が理論研究に課せられた積年の課題である. 本研究ではその1ステップとして,管で繋がれた周期的ポンプが生み出す 流れについて調べた.結果,流れる物質が非線形性粘性を持つ場合のみ1周期後 の累積流量に偏りが生じ,その偏り方は粘性の詳細に依存することを見出した. 累積流量の偏りは細胞の移動に相当し,粘菌細胞質はアクチンフィラメント などの高分子を含んだ複雑流体である.これまでの粘菌細胞質のモデル研究は 主にニュートン流体で近似して行われてきたが,本研究の結果は,その粘性 を取り込んだモデルでなければ細胞運動を正しく記述できないことを示唆している. 第二回(7/11) †微小非平衡系における情報熱力学 †7/11(月) 15時00分〜 (2時間程度を予定)
情報と熱力学の関係は、Maxwellのデーモンのパラドックスと関連して古くから 知られ、 多くの議論がなされてきた[1]。近年の微小非平衡系を測定・制御する技術の進 歩により、 デーモンは思考実験の世界を超えて、理論ばかりでなく実験的にも重要なトピッ クとなり つつある。今回のセミナーでは、情報処理プロセスにおける熱力学第二法則に関 する、 我々の理論および実験の結果について議論する。 理論的には、我々が非平衡統計力学と量子情報理論に基づいて導出した、情報処理 プロセスにも適用可能な形に拡張された熱力学第二法則について議論する[2,3]。 これらの拡張された第二法則から、フィードバック・測定・情報消去といったプ ロセス に必要なエネルギーコストの原理的な下限が明らかになる。実験的には、サブミ クロン スケールのコロイド粒子に対して室温でフィードバック制御を行うことにより、 情報(相互情報量)を自由 エネルギーに変換できることを示した実験について 議論する[4]。 これは1929年にSzilardが思考実験で提案したタイプのデーモンのはじめての実 現になっ ている。また、時間が許せば、非平衡関係式(Jarzynski等式)の情報処理過程 への拡張[5]、 およびその実験的 検証[4]についても議論したい。我々の結果は、情報量と熱力 学量を同等 に扱う形になっており、いわば「情報熱力学の第二法則」と呼びうるものになっ ている。 参考文献:
第一回(6/27) †音響電磁相互作用による Brain Machine Interface †6/27(月) 15時00分〜 (2時間程度を予定)
超音波と電磁場との相互作用に基づく双方向の Brain Machine Interface を提案する。これは、脳や神経など生体内における電気活動を、数十マイクロ メータの位置分解能で3次元かつミリ秒時間分解能のリアルタイムで非破壊的・ 非侵襲的に計測すると同時に、生体内の3次元で任意に指定できる領域に同様 の精度で任意のタイミングで非破壊的・非侵襲的に電気刺激を与える方法を 理論的に提案するものであり、脳と機械を高速大容量でインターフェースする 新しい方法となるものと期待している。現時点においては、理論の実験的な検証 には至っていないが、生理研における実験的研究の状況も併せて報告する。 (論文紹介)
|